東電が原発事故最終報告書 「防ぐべき事故防げず」( 2013/03/29 共同通信)より
●引用始まり
東京電力は29日、福島第1原発事故について「天災と片付けてはならず、防ぐべき事故を防げなかった」と原因を総括した上で、経営陣直轄の専門部署を設けるなど原子力部門改革の最終報告書をまとめた。
報告書は昨年9月から、広瀬直己社長を長とする約30人の作業チームが作成。米原子力規制委員会(NRC)のデール・クライン元委員長ら東電内外の5人の有識者でつくる「原子力改革監視委員会」がこの日了承した。
報告書では事故原因について、「設計段階から地震や津波で設備が故障するという配慮が足りず、全電源喪失という過酷な状況を招い た」と言及。「海外の安全性強化策などを収集・分析する努力が不足していた。結果、炉心溶融し、広域に大量の放射性物質を放出させる深刻な事故を引き起こ した」とまとめた。
さらに東電の組織に内在する問題点も指摘。「過酷事故の発生を経営リスクととらえず、安全性を高めていく活動を重要な経営課題として明示していなかった」として、対策を先送りする「負の連鎖」が定着していたことを認めた。
●引用終わり
この報告書をざっと見て、このブログ(2012年3月)でも紹介しましたが、NHKのドキュメンタリー「世界からみた福島原発事故」で見た事実は、やっぱり本当だったという確信を持ちました。
そう、やはり福島原発事故は「人災」であり、十二分な安全対策を講じず、原発の安全性を過剰にPRし、経営効率、利益を追い求め続けた東電と国の責任は非常に思いと感じました。
再校になりますが、ブログ(2012年3月)でも紹介したNHKのドキュメンタリー「世界からみた福島原発事故」の内用をざっと紹介したいと思います。
★そもそも福島第一原発で何が起こっていたのか?
●2011年3月11日、激しい地震が起き、原子炉が自動的に運転を停止。同時に送電線の鉄塔が倒れる。
●50分後、津波が押し寄せ、電源盤と非常用ディーゼル発電機が水をかぶり、機能停止。
●全電源を失い、原子炉に冷却水が送れなくなった。
●冷却水が送れないので、熱を発する炉心を冷やせなかった。
●その結果、燃料棒が解けるメルトダウンが起きた。核の格納容器に放射性物質が充満を始める。
●メルトダウンが起きると、水素が発生。格納容器、原子炉建屋に漏れ出し、酸素などと反応し爆発する危険性が高まる。
●そして、遂に24時間後、1号機が水素爆発、続いて3号機、4号機が爆発〜放射性物質が大気中に放出された。
●最悪の爆発を防ぐためにベントという安全設備が装備されていたが、電力喪失で作動しなかった。
*ベントとは原子炉格納容器内の蒸気を逃がして、圧力を下げることで爆発を防ぐ安全装置。海外ではベントは緊急時に手動動作が可能にしていたが、福島第一原発は電動でしか動かないようになっていた。
地震や津波の発生は人間のチカラではどうすることもできませんが、問題は「全電源喪失の緊急時」に対する安全体制、バックアップシステムがなかったことです。
★内容要約
1.福島第一原発は何故、メルトダウンという大惨事を生み出したか?
●1967年に米国GE社から導入された原子炉は「マーク1」(左側の挿絵)という非常に小さな核の格納容器のタイプ。
●格納容器が小さいと今回の大震災のように冷却水の供給が途絶えた場合、水素が充満する時間が早くなる。
●そのため、原子力発電大国であるアメリカやスイスは、「予備の予備の予備」までの安全対策を立てている。
●その安全対策を整備することを東電ならびに原子力安全保安院、そして国は 怠っていた。
●それは安全対策を整備するとコストアップにつながり、利益を圧迫するからである
2.スイスの安全対策(スイスのマーク1の原発の場合)
●緊急時に対応してベントを配管・・・・・・緊急時に放射性物質を放出する。(日本もベントは導入済み)
●全電源喪失の緊急時は手動でベントが開けられる
日本は手動で開けられない設計で、 今回、全電源喪失が起こり、ベントを開けられなかった。そのため作業員が非常用バッテリーを持ち込み、こじ開けた。それは何と水素爆発の1時間前と言うから驚く。
●さらに「放射性物質」を千分の一にする薬品タンクを装備〜緊急時に重力で容器に送ることができる
●そのほか、「非常用発電機」「非常用冷却設備」を装備し、外部電源が止まった時に対応できるシステムを保有し、全電源喪失に対する関係者の訓練を常時行っている。3.アメリカの安全対策
●2001年の同時多発テロ後に、全電源喪失の緊急時に、交流電源がなくても冷却水を送れるシステムを装備。●また、8時間、電気を供給できる「非常用電源カート」を常備している。
●さらに、「マーク1」という致命的に小さい格納容器を有する原発は、地震の少ない東部にしか配備していない。
4.日本の原発の安全対策
何十年にもわたり、原子力発電の安全対策の研究を行ってきたスイス 原子力委員会 のブルーノペロード氏は、
東京電力に数度、ベントだけの安全対策は不十分で、全電源喪失の緊急時を想定したバックアップシステムの整備をすべき」とアドバイス。
しかし、東電と原子力安全保安院は、 全電源喪失が起こる可能性は非常に小さいと切り返したという。
また、2001年の同時多発テロ後に安全体制を強化した米国東部の原子力発電所に、視察団を派遣。それにもかかわらず、安全対策を強化しなかった。
5.日本以上に安全対策を整備したスイスとアメリカの相反する原発の指針
●スイス国内の電力需要の40%を賄う5基の原子炉について、今後は、古くなったものから順次、 運転を停止し、2034年までには、すべての原発を廃止にする。
●アメリカは、安全対策を高めながら、原発の比重を上げていく方針。(現在、104基で新たな原発建設を34年ぶりに許可)
この両国の極端に相反する決断は吉と出るか凶と出るか?いずれにしても安全で地球にやさしいクリーンで、かつ産業活動や市民生活を充足するエネル ギー供給という目標を達成するために、原発をどのように位置づけるか?脱原発で果たして増え続けるエネルギー需要に対応できるのか?・・・まだまだ議論は 続きそうですね。
以上の事実を知って、今さら問われるのは、東電、原子力安全保安院、そして国が安全対策を怠っていたと言うことです。特に「原子力安全保安院」に付 いている“安全”という冠は何だったのか?!と思います。特に「全交流電源喪失」の対応がベントによる圧力解放という対策一つで放置しておいたことは、戦 争犯罪に匹敵する懲役クラスの犯罪であったと断言できると思います。
★「21世紀の原子炉の安全強化の提言書」
NCR(米原子力規制委員会Nuclear Regulatory Commission)の福島げんぱつ分析対策チームはこう結論づけています。
●マーク1のベント強化、信頼できるものへと設備増強をすべき。
●全交流電源喪失時に対応する「72時間」の電源供給の確保。
●原発規制の枠組みの強化。
原発を推進する米国でさえ、こうした取り組みを検討しているのにも関わらず、日本政府から何ら原発とエネルギー政策の未来図が提示されていません。 さらに、日本は地震大国であり、今回の津波の再来を想定するならば、スイスや米国以上の安全対策の強化の指針が打ち出されないといけないはずにもかかわら ず。
そして、今回の原発事故では40数年以上もの前の老朽化設備の継続稼働を認めた原子力安全保安院と国、またコスト削減という経営効率のみを追求した東電に対して司法の場で罪を問うことも必要ではないかと強く思います。
今回の教訓は営利を追求する民間企業だけでリスクマネジメントを整備するのは無理があるということです。当然、経営の効率化からコストがかかる安全 体制の費用をカットし、リスク想定も低く見積もることになるでしょう。安全体制をケチった代償はあまりも大きい、東電が経営危機になるのは自業自得として も、何の積みもない福島県民の皆さまの苦しみを考えると本当に胸が痛みます。
リスク管理の法整備と完全な第三者機関による管理・監視する体制を早急に確立する必要性に迫られています。次の地震や津波が日本のどこにやって来てもおかしくないという事実が私たちの前に突きつけられているわけですから。
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