2015年9月14日(月)、渋谷にあるBunkamura「シアターコクーン」にて、蜷川演出の「マクベス」を鑑賞。

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サブタイトルが、「仏壇マクベス」となっているので、何のこっちゃ?と思って、劇場に入ったら、舞台装飾が巨大な仏壇となっていた。

二人の老婆が座席通路から声もなく舞台へ歩み行き、仏壇の扉を開くと、王の間が登場する。

シェークスピアのマクベスの展開と登場人物は忠実に描かれるが、時代設定は日本の安土桃山。

私が心を奪われたのは、衣装と舞台芸術。人形浄瑠璃や歌舞伎を思わせる絢爛なコスチュームが、日本の春夏秋冬の自然をモチーフにしたと思われる舞台美術と見事に調和していた。

仏壇の扉を開けると、障子をモチーフにしたスクリーンがあり、そこに次なるシーンの風景がシルエットとして映し出される仕掛けは、実に美しい。リアルな舞台にもかかわらず、映像を見ているような錯覚に陥る。そして、スクリーンが開けられると、リアルな舞台が登場するという流れに感服した。やはり、蜷川の発想力・プロデュース力は凄いな。

さらに、案内パンフレットをチェックすると、舞台美術に妹尾河童、衣装は辻村寿三郎という大御所が名を連ねていた。流石です。

ストーリーや演じるキャストたちには、何故かさしたる感銘を覚えなかったが、マクベス夫人の田中裕子、マクベスの友人であるバンクォー役の橋本さとしの演技は印象的だった。また、マクベスに殺戮される王の後継者である王子のマルカム役・柳楽優弥は、映画やテレビだけではなく、舞台にも進出して「おう〜頑張っているな!」という好印象。

一方、主役であるマクベスの市村正親には、特に何も感じなかった。無難に演じているな〜という感じで、マクベスの微妙な心の葛藤は演じ切れていなかったような印象を受けた。ヴィジュアル的にも声が会場内に響いていた橋本さとしのほうに、お株を奪われていたという感じだ。

花子とアンの九州の炭鉱王・伝助役で、一躍注目を浴びた吉田鋼太郎は、少々期待外れ。存在感は相変わらずでアッパレですが、演技が少々大げさ(これが舞台ですが・・・)、過労からか声が少し枯れていたのが気になった。やはりテレビに出過ぎか?

演技や舞のエッセンスには、歌舞伎や能の世界が入っていたが、魔女たちの台詞回しが滑稽過ぎたり、繊細な心の動きを表現する時に、台詞が大袈裟で、かえって人間の業の深さ、悲しみが伝わってこなかった。

蜷川の作品は、そう多く見たわけではないが、何といっても度肝を抜かれたのは、「新・近松心中物語」。大衆演劇や杉良太郎などの舞台劇+歌謡ショーのファンである方から、歌舞伎・文楽ファン、テレビドラマや映画しか観たことのない方まで、幅広い層が絶対に涙すること間違いのない内容だった。オープニングの女郎屋の風景。阿部寛、寺島しのぶ、田辺誠一、須藤理彩などの出演者たちの息の飲む迫真の演技に、「いよ!千両役者!」と叫びたくなった。

次に、歌舞伎とシェークスピアが融合した「十二夜」は粋!。舞台芸術やストーリー展開の妙が素晴らしく。笑える部分も多いので誰もが楽しめる。俳優陣も尾上菊之助の美しさもさることながら、市川亀治郎(現・猿之助)の演技力・表現力の高さを知るきっかけになった作品だ。

近松心中物語に比べて、どうしようもないことをしてしまう人の業の深さ、運命の切なさという面。十二夜に比べてウィットさと繊細な心の動き・所作という側面で、今回のマクベスは劣っていたような気がする。

ただ、作品のジャンルが違うので、単純には比較できないが、自身の率直な印象だ。結局、好みの問題かも知れないが、世話物・痴話物、人間の業を描かせたら、シェークスピアより近松門左衛門!古今東西、世界随一なのかを思ってしまう。

また、今回の舞台に出ていた役者より、歌舞伎役者の一流どころは凄い(たいしたことない人もいますが・・・)!と再認識。特に市川亀治郎(現・猿之助)は、舞台でただ声を張り上げるだけではなく、繊細さが求められる台詞でも抑揚を押さえながらも、声が通り聞き取れる。これは、幼少の頃より、さまざまなアングルから鍛錬を続けている精進の賜に違いない。

PS:舞台や映画を観るとき、自分の周りの世界と照らし合わせて夢想するのも面白い。
 例えば、今回のマクベスでは、勇敢で主を守るのに忠実だったマクベスが、魔女たちの「お前は王になる」という予言で、潜在的に眠っていた欲望が覚醒され、マクベス夫人の頂上欲と重なりエスカレートしていく様子で、自分の知り合いを思い出してしまった。

 真面目にコツコツ働き財を築いたベンチャー企業の社長が、友人に誘われて行った大阪・北新地で女性とのふれあいにはまり、果ては京都先斗町に私財を注ぎ込むまでになってしまった。それまで浮気などは無縁の仕事一筋の男の底に潜む「もてたい」とい欲望が、たった1回の新地遊びでスパークしてしまった!・・・というのを何故か、マクベスを鑑賞しながら重なってしまった。「男の甲斐性は新地や芸子遊びやで〜」と悪魔の囁きをしたのも私の友人・・・この男は、マクベスで言えば、魔女役だなと思う(^_^)

 そのほか、多くの男性どもに潜むヒーロー願望・・・頂点にたちたい、少なくともアイツよりは上にたちたい、人に認められたい、もてたい!・・・それによって転落していった人たちを何度か垣間見てきた。実は、私もその1人ですが、何とか崖っぷちでいつも盛り返しています!

 という訳で、小説でも何でも自分の暮らす世界と照らし合わせて夢想するには面白いですな。

PS2:と言いつつ、本稿を終えようと思ったが、10年前くらいに見た歌舞伎俳優陣よる「マクベス」を思い出す!
 マクベスを市川右近、夫人を市川笑也が演じ、大阪の大槻能楽堂で上演。作品の出来映え、歌舞伎俳優の破滅へ向かう人々の苦悩の表現という側面で、今回見た蜷川の世界より遙かに印象的だった。

 と思ってネットで探したら、公式サイトが残っていた・・・感激! → http://www.ryutopia.or.jp/skp/series7.html

 能楽堂という三間四方の空間に、余計な装飾をすべてそぎ落とされているので、俳優個々の所作・台詞回し、名優たちを行き交う心の葛藤に観る者が、すべてを舞台空間にフォーカスできた。

 大枚をつぎ込まなくても、こうしたシンプルな空間で演技と舞を楽しめるのだな〜と感心したのを思い出した。是非、リバイバルをしてもらいたいと思います。

 金がなくても創意工夫と個々の人間力が調和すれば、素晴らしい商品やサービスが生まれるに違いない・・・と、ビジネス的な側面でも共鳴できる作品だった。

蜷川マクベスの公式サイトは、こちら。10月3日までやっているようですが、切符はほぼ売り切れているようです。

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